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数作品だけで終わらなかった、グローバル俳優のパイオニア 「イケオジ」って言葉をよく耳にするけれど、それって外見のことだけじゃない。ハンサムな男性が歳を重ねたら自動的にイケオジなるものに進化する、なんて単純なものではないのだ。ということを、米トーク番組『The Late Show with Stephen Colbert』に出演した 真田広之 の姿を見ていて改めて思った。 9月16日に開催されるアメリカの エミー賞 で、真田さんが総作指揮&主演を務めるドラマ「Shogun 将軍」が、25部門の最多ノミネートという高い評価を受けている。 ディズニープラス で配信されているこのドラマ、会話の70%が日本語で字幕付きという異色のアメリカドラマにも関わらず、配信からわずか6日間で世界で900万回視聴される人気ぶりで社会現象に。劇中で真田さんが演じるのは、徳川家康をモデルにした吉井虎長という架空の戦国武将。この虎長、狡猾だが謙虚で礼儀正しく、まさに「武士」と呼ぶのに相応しい人物。これが真田さんご自身の姿にも重なるのだ。 ※「Shogun 将軍」がハリウッドでヒットした理由を解説。 2003年の『ラストサムライ』でハリウッドに進出した彼は、通訳なしの流暢な英語でホスト役のステファン・コルバートと対談。エミー賞ノミネートについて訊かれると、「連絡が来てもずっと信じられなくて、いろんな人からのお祝い電話やメールに対応している間にようやく実感が湧いて来ました。夜には小さな シャンパン のボトルを開けて、ささやかに祝いましたよ」。ステファンが日本語で「戦国時代」と口にしたときも、「すごい上手だね。感心したよ」と嫌味なくサラッと褒めていた。 英会話が実に自然で、変にアメリカ人に迎合しているところもなく、面白いことを言ってやろうという肩に力が入ったところもない。自然体で堂々としていて、普段からスタッフたちとのコミュニケーションを大事にしている人なのだろうなと感じる。「小さなシャンパンボトルで」と発言しているが、実際にこの快挙を成し遂げるまでには、ものすごく地道な努力とハードワークの積み重ねがあったよう。 2013年の 映画 『ウルヴァリン:SAMURAI』の撮影現場では制作スタッフたちからセットにおかしいところがないか日本人としての意見を求められ、それに対応するうちに他のスタッフからも特殊メイクや様々な事柄について、日本文化を正しく再現するためのアドバイスを聞かれるようになっていったという。そこから制作陣との信頼関係が生まれ、今回の「SHOGUN 将軍」のプロデューサー職に繋がった。はじめは俳優としてだけのオファーだったけれど、ここで彼はある提案をする。日本人のクルーや俳優たちを雇うことを引き受ける条件としたのだ。それはオーセンティックな日本の時代劇を作りたいというだけでなく、次世代の日本の映画スタッフ・俳優たちをハリウッドに輩出したいという想い。そして何より、自分が誇る日本の カルチャー を世界に正しく伝えたい、という情熱から。 日本文化を世界へ。演じる続けることで成し得た軌跡 「20年前に私がL.A.に 移住 したときから、東洋と西洋の間にある壁を壊すというのが私の使命のひとつでした」と、真田さんは米Forbes誌 インタビュー で話している。「次の世代のためにも、その壁を壊して橋渡しする手伝いをしたい。それが私がハリウッドに飛び込んだ理由です。その前はお客様のような気分でいたけれど、もし私がその壁を壊したいのならばハリウッドのど真ん中に飛び込まないといけないと気づいたのです」。そのために、常に現場では次に繋がるような関わり方をして次に進むということを心がけてきたという。 俳優としての立場だけでは作品に対して意見を言える権限に限界があると感じていた彼が、今回初めてプロデューサーという肩書きで参加。それによって遥かに素晴らしいショーを作り上げることができたということについて、こう振り返る。「虎長も同じだったのかもしれない。彼は将軍になることを望んでいなかった。しかしある時点で、彼は平和な時代を作る唯一の方法は、自ら将軍になることであることに気づいたのです」。彼はまたこうも言っている。「私がこの役を引き受けたのは、私たちが今、この種のヒーローを必要としているからです。私たちには平和をもたらす英雄が必要です。世界中で再び戦争が起きている今、このドラマは世界にとって非常に良いメッセージとなるでしょう」 武士の所作から小道具に ヘアメイク 、すべてを完璧にオーセンティックなものに仕上げるため、日本から最高の制作スタッフたちを呼び寄せた。これも彼が40年近く日本で築き上げてきた映像業界でのコネクションと信頼の賜物。みんなが円滑に仕事に集中できるよう、撮影中は毎日現場に誰よりも早く入り、誰よりも遅くまで残っていたというエピソードも。 そして今回、主演の真田さんだけでなく、主演女優賞で アンナ・サワイ 、助演男優賞に 浅野忠信 と平岳大、そのほか編集賞やスタント賞、キャスティング賞でも歴代最多となる、日本人11人がノミネート──いやこれって、理想の上司像じゃない? 誰よりもリスクを背負った上で部下を育て、日本文化の輸出にまで心を馳せる。プロデューサーになりたかったのも好き勝手にやりたいからとか功名心からだなんてことではなくて、責任を持っていい作品を作りスタッフを守りたかったから、が理由。ドラマの虎長そのもので、生き様と仕事ぶりがまずイケている。現在63歳の真田さん。かっこいい、こんな風に歳を重ねたい! 紛うことなきハンサムで、若い頃は 恋愛 ゴシップでも世を賑わせてきた彼。それが歳を重ねるにつれ、自身の成功だけでなく日本の映画業界全体にまで目を配り、信念を持ってやって来た。それが外見のオーラにも表れている。これこそが「イケオジ」。容姿の良さに胡座をかいて「残念な元イケメン(と言ったら言い過ぎだろうか)」になる男性も少なくない中、やはり中年以降は「中身」と人柄が何より重要なのだ。これは女性にも言える。いい年齢になって自分のことしか考えられないとしたら、いくら見た目が良くても「美しく」は見えない。人というのは不思議にバイブスのようなものを感じ取っていて、良い具合に年輪を重ねて来たかどうかというのは、滲み出てしまうものだから。 日本とアメリカの キャリア の橋渡しをするという夢を叶えた真田さん。10代の頃に徳川家康に関する本を読み、「人生は重い荷物を背負って歩く修行のようなもの。道を急ぐなかれ」という言葉に感銘を受けたという。「その言葉は私の心を奪いました。そこからは、私はいつも未来のことを考えて来ました。明日ではなく、10年後、30年後に、私はより良い人物、より良い俳優になりたい。そのために私が今すべきことは?」 Text: Moyuru Sakai Editor: Toru Mitani.

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