featured-image

1 疾走感と緊張感を加速させる石野卓球のサウンド・クリエイション 第一話、都内某所で白骨化した遺体が見つかるシーンから劇中のサウンドが視聴欲をかき立てる。不穏な空気を表す低音のうねりと事件が走り出すような疾走感。ミニマムなテクノに切り替わり急に耳ざわりが変わって意識を揺さぶったり、緊迫感をマックスまで持っていったりと、劇伴 音楽 を担当した電気グルーヴの石野卓球のクリエイションが物語をよりヴィヴィッドに彩っている。同じくテクノを劇中に差し込んだ作品として 映画 『光』(2017)があるが、ジェフ・ミルズが手がけた劇伴音楽よりも、もっと作品のムードと溶け合っていて個人的には「地面師たち」の方が没頭できた。そして、詐欺師グループの一人を演じているのはピエール瀧。ある意味この作品は、今年35周年を迎えた「電気グルーヴ」のセレブレイト作品とも言える。 2 大根仁監督バズーカ発動。「自意識囚われ青年が急に先頭に立った感」ある振り切り方がスゴイ 『モテキ』(2011)や『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(2017)では、自意識に縛られ身動きが取れなくなる繊細すぎる青年を、これ以上緻密に描けないだろうというくらいに丁寧に描き、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(2018)ではサブ カルチャー とポップカルチャーを同列に捉え、とびっきりな愛が込められて日本の文化を振り返った大根仁監督。そんな大根監督が今作を手がけたわけだが、今作は今までとはどこか“風味”が異なる。「地面師たち」ではある意味いつもの繊細さを封印して、何もかも振り切った爆走・疾走を感じる。 (個人的な表現なので齟齬が出そうだけど)言うなれば、「文化系男子が急にステージに立たされて気が触れて急に完璧なコンテンポラリー ダンス を披露して、最後にアカペラで完璧な『First Love 』( 宇多田ヒカル )を歌い上げておもむろに帰宅する」的な振り切り方。重要キャストが容赦無く死ぬし、美しくバランスをとるなんて意図も感じない。昨今の 韓国 人による思い切りの良さに匹敵する強烈なストーリーラインで終始夢中になれる。その上で、綾野剛演じる主人公・拓海が持つ心のヒビや痛みを丁寧に丁寧に描くていく。第一話、拓海が炎を見つめるラストシーンに、それは集約されているだろう。大根監督の新しいフェーズを見れた感覚なり、最終回まで監督に操られるかのように物語にのめり込んでしまう! 3 「スーパー戦隊」女性1、男性4比率。犯罪集団がヒーローに見えてくる憧れマジック 詐欺師グループに憑依したのは、日本を代表するスターたち。フィクサーで取りまとめ役のハリソンを豊川悦司、接続役を綾野剛、情報を集める竹下を北村一輝、地主になりすます人間をキャスティングする麗子を小池栄子、そして、不動産会社や土地所有者と交渉を進め、情報を流して買い手を引き寄せる後藤をピエール瀧が演じている。もうこの配役があまりに“ぴったり”で、これ以上の配役が想像できないほどストーリーに没入できるのが今作の面白さ。売買されていない土地を数億単位で売りさばく、という特大の犯罪を彼らは自ら「仕事」と呼ぶ。おいおい、犯罪だろとツッコミを入れつつも、上質な騙しテクニックを眺めていくうちに「かっこいい。地面師、やりたい」と思わせるのだ(個人の感覚です)。それは、戦隊ものの5人組を見つめる少年のように。 ふと気づけば、男性4名に紅一点が加わった5名。偽造書類を作る長井(染谷将太)が6人目として存在するけれど、ハリソンチームのフロントラインには立っていない。このきりのいい5人だから妙な感情移入ができてしまう。きっと7、8、9人とザクザクと人が多くなると『オーシャンズ11』(2001)のように、どこか見ている側と距離ができてしまうはずだ。 4 ハリソン杉山のセリフが詩的だけど笑える、というハイブリッド 地面師集団の狡猾な大ボス、ハリソン山中。過去は明かされず、ただただ不気味でミステリアスなサイコパスを豊川悦史が演じる。彼が持つエレガンスと浮世離れしたムードが見事にフィットしていて、もう、終始「怖い」。やっていることは超絶に下品なことなのにその独特な言葉づかい含め犯罪が上品にすら見えてしまう。かつ、彼のセリフがいちいち面白い。とある裏切り者に制裁を加える後半、ハリソンは手を下す前にこう言い放つ。「もっともフィジカルで、もっともプリミティブで、そしてもっともフェティッシュなやり方でいかせていただきます」。なんだそれ(笑)。シリアス過ぎるシーンでこのセリフは面白過ぎるし、カタカナ英語かぶれのライターが考えたキャッチみたいだし、緊迫感をパチンと切ってしまう遊び心に痺れてしまった。ほかにも、あとは自分で考えろや、と言わんばかりの「アドリブで」という一言も恐怖とギャクのハイブリッドだ。地面師たちを追う警察たち、地面師たちに騙される大手不動産ディベロッパーたちのシーンは終始シリアス。だけど地面師たちのシーンはどこかコミカルで、何よりハリソン山中の浮世離れ感で「 ワンピース 」のバトル前のシーンにも見えてくる。この過激なハレーションが、物語をよりユーモラスに仕立て上げているのだろう。 5 令和において突如として現れた青柳という平成初期的バブルキャラ。演じた山本耕史がスゴい どの登場人物も素晴らしく優劣がつけられないほどに全員好きだったのだけれど、鑑賞数日後になっても印象が消えないのが、壮大に騙されていく青柳だった。演じたのは山本耕史。彼の振り切った演技が忘れられない。序盤、窮地に立たされた青柳は無茶ぶりを部下に命令し、コンプラ違反ですとやわらかく拒否され、その上でこうシャウトする。「これは戦争なんだよ。戦争にコンプライアンスなんてねえんだよ!」。もうパワー ハラスメント の嵐で、昨今見られなかった”あの頃”の景色が連発されていく。もはや平成、もしくは昭和。ただ、人間追い詰められるとコレくらい盲目になるはずで、必死に何かを掴み取る時に綺麗ごとなんて言ってられないのかもしれない。100億という金を動かし、成功を掴みそうになって青柳はペニスを握り、最後にはとある女性に夜景を眺めさせながら攻撃的なセックスに没頭する。男性優位社会の代表者のような強欲な彼の思想を振り切ったキャラクター設定で描く大根監督もすごいし、何より青柳を演じ切った山本耕史がすごい。「きのう何食べた?」でジルベールを愛でる小日向さんの振り切り方も強烈だったけど、今回の青柳はある種さらに強烈な気もする。そして、青柳という人物が被害者にも関わらず、悪役のように見えてくる演出もコレまた斬新だ。 強者、弱者、正義、悪。相反するさまざまな人間模様が華麗に入り組んだ「地面師たち」は、「全裸監督」(2019、2021)に続くグローバルクオリティの“日本発”コンテンツであることは、間違いない。正義、悪、どちらにも気持ちが寄り添うことができるハイブリッドなエンタメ作品が誕生した。 Editor: Toru Mitani.

Back to Entertainment Page